トラウマと条件反射

このページでは、これまであなたがどんなに頑張ってプラス思考に努めても、あがり症を乗り越えることができなかった原因について説明します。

それを理解する鍵となるのが「トラウマ」です。

トラウマとは、強い感情をともなう失敗体験や恐怖体験で、何度もリアルに映像がフラッシュバックされたり、ふと思い出されてしまったりする「つらい記憶」です。

「大事な試験で緊張してしまい、頭が真っ白になった」
「仕事の相談のさいに、上司から威圧的に怒鳴られた」
「大切な取引先でのプレゼンでしどろもどろになって大失態を演じた」
「学生時代の全校スピーチで固まってしまい、大恥をかいた」

トラウマの、より軽度なものが苦手意識といえるでしょう。

GUM01_PH04016トラウマを抱えている人は、人前に立っただけで、会議室や面接会場に入っただけで、体が震えたり、心臓がドキドキしたり、汗をかいたり、口が渇いたり、胃が収縮したりするといった生理ストレス反応が起きて、不安になったり、怖くなったり、思考が働かなくなったりといった状況に追い込まれます。

どうしてまだプレゼンも始まっていないのに、会議室に入るだけで、ストレス反応が起こって心理的な苦痛を生み出したりするのでしょうか?

自分で思い出したくて、もしくは意識的に、このようなトラウマ記憶をフラッシュバックさせていたのでしょうか?もちろん、そうではありません。しかし、無意識にフラッシュバックさせてしまっているのです。「無意識」というのがポイントです。

実は、無意識こそが、トラウマの本質なのです。このトラウマ反応の本質については、有名なパブロフの犬の話がとても参考になります。

ロシアの生理学者パブロフは、実験中、犬に餌を与える前に、鐘を鳴らしました。これを繰り返すと、鐘を鳴らすだけで、犬は唾液をたらすようになりました。これは専門用語で「条件付け」と呼ばれています。

反対に、餌を与えるのではなく、鐘を鳴らすと同時に電気ショック与えることを続けると、鐘の音を聞くだけで、犬は怯えて震えるようになります。「鐘の音」という条件が、「震え・恐怖」という反応に結びついたのです。これも「条件付け」です。

より正確には「恐怖条件付け」と呼びます。

あなたが特定の場面で、体が震え、汗をかき、不快な感覚に陥るのは、この「恐怖条件付け」と呼ばれる神経メカニズムが原因です。このような「恐怖条件付け」の神経メカニズムによって、あなたは、過去にやってしまった大きな失敗や恥ずかしい思いを、無意識のうちに思い出してしまうのです。

EK151_L思い出したくて思い出すのではなくて、反射的に思い出されてしまうのです。基本的には、日本人が梅干しを見ただけで、反射的に「唾」がでるのと同じです。

PTSDと呼ばれているメンタル症状をご存知でしょうか。PTSD(心的外傷トラウマ障害)とは、過去に衝撃的なトラウマを体験すると、突然その記憶が蘇ったり、何らかの些細な出来事がきっかけとなったりで、ひどく心が緊張してしまい、日常生活に支障をきたしてしまうメンタル症状のことです。

例えば、阪神大震災を経験した方の中には、震度1や2の地震を感じただけで、ものすごい恐怖感に襲われる人もいます。また、JR西日本の尼崎脱線事故で生き残ることができた乗客には、いまでも電車に乗ることができない人も少なくありません。電車を見るだけで、そのときの恐怖体験がよみがえるのです。

トラウマによる恐怖感情(=ストレス反応)は条件反射的に起こるのであって、決してマイナス思考から起こるものではありません。

気合やプラス思考では、梅干しをみて出る唾を抑えることはできないのです。

拙書『「ここ一番に強い自分」は科学的に作り出せる』38-45ページから